高松高等裁判所 昭和26年(う)467号 判決
よつて所論の点について記録を検討すると被告人が昭和二四年三月頃原儀八から同人が発起人となり設立を企図した潮造船株式会社の設立に必要な資金獲得の為融資関係機関に融資方運動の依頼を受けて引受け右融資に対する運動資金として同年四月七日頃高知県幡多郡清水町浜松旅館に於て東京行旅費名義で三万円、右会社の定款認証料名義で一万二千円合計四万二千円を受取り更にその後同人から富士銀行築地支店宛被告人を受取人として十万円を電送させ、同月一八日頃同支店に於て現金十万円を受取つたことは被告人の原審公判廷の供述及び原審証人原儀八の証言に依つて明かである、そして又右原証人の証言の外原審証人金沢重武の証言及び原審の取調べた金沢重武の司法警察員並に検察官に対する各供述調書等を綜合すると被告人はその前同月三日頃同郡三崎町原和太郎方に於て原儀八に対し被告人の知人である菅谷良雄が経済安定本部に勤めて居て、同人に融資を依頼できるかどうか問合せたところ同人から委細承知した、十三日に福岡から帰るからすぐ来いと云う電報が来た、十中八九、二百五十万円位借入れできるが、十三日迄に東京に行かねばならぬから定款と借入書類を準備され度い、なお菅谷事務官に運動資金として十万円渡すようしてあるから右旅費及び定款認証料の外運動資金を渡され度い旨申向けた上前記の通りの金員を夫々原儀八から受取つたものであることが肯認できる、他方原審の取調べた各証拠及び当審の取調べた各証人の証言等を綜合すると菅谷良雄なるものは当時経済安定本部に勤務して居らず、被告人の知人の菅谷良雄は当時復員後で製薬関係の仕事をして居たが同人には造船融資等について何等の権限もなく、又同人に対しては被告人から一、二度融資について問合せをしたに過ぎず具体的に格別の運動を依頼したこともなく、まして同人に対し運動資金として十万円を提供する等のことは全く事実無根のことであり又当時造船融資は既に締切られて殆んど可能性もなかつたことが認められるのみならず被告人に於て具体的に且誠実にその運動を為したと見られる形跡も認められないので、叙上の事実関係を彼此綜合すると本件融資について被告人は当初から誠実にその運動を為す意思もなく又その見込もなかつたものであることが窺はれ従つて本件被告人に詐欺の犯意は十分にこれを認定できる。
ところが原審は所論の通り原儀八を欺罔したことは認定できるが被告人がその受領した金員を融資運動に使はなかつたと云う点が明かでないとの理由のもとに被告人にこれが不法領得の意思を認め難いとして無罪の言渡をしているが、元々、融資の斡旋方依頼せられたものが当初から誠実に斡旋を為す意思がなく又その融資を受ける見込もないに拘らず殊更虚構の事実を告げて融資の可能なことを強調し、依頼者をして確実に融資を受け得る見込があるものと誤信させて多額の旅費及び運動資金を交付させたときはその期罔手段と金銭授受の間に相当因果関係の認められる限り授受された全額について詐欺罪の成立を肯認すべきであつて仮令その後、斡旋の依頼を受けたものが事実上運動のためと称して旅費等を支弁していたとしてもその犯罪の成立を妨げない、いわんやこれを運動費に使はなかつたことが明かでないから不法領得の意思を認め難いとの原判決の認定は経験則にも合致しないものであり首肯し難い、原判決は結局この点に事実誤認があり、この誤認は原判決に当然影響を及ぼすから破棄を免れない、検察官の論旨は結局理由がある。
よつて刑事訴訟法第三九七条、第三八二条に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従つて直ちに判決する。
罪となるべき事実
被告人は原儀八から同人が発起人となつている潮造船株式会社の設立に必要な資金獲得の為に融資関係機関に融資方運動の依頼を受けたのを奇貨とし知人の菅谷良雄が経済安定本部に勤めて居らず又同人より「委細承知した、十三日福岡より帰るから直ぐ来い」と云う電報が来た事実もなく、又同人に前記会社の設立資金獲得の為の運動費として十万円渡す約束もないのみならず被告人自身誠実にその運動を為す意思もなく又その融資の見込もないのに拘らず、これらの事実が孰れもあるように装い、昭和二四年三月頃幡多郡三崎町の当時の被告人自宅に於て原儀八に対し、東京の経済安定本部に知人の菅谷事務官が勤めて居るが同人に融資ができるかどうか手紙で問合せてみる旨虚構の事実を申向け、更に同年四月三日頃同町原和太郎方に於て原儀八に対し菅谷事務官から被告人宛委細承知した、十三日福岡から帰るからすぐ来いと云う電報が来た、十中八九、二百五十万円の借入れができること間違いないから十三日迄に東京に行かねばならないので定款と借入書類を準備され度い旨並に菅谷事務官に十万円運動資金として渡すようしてあるからその資金十万円と旅費として三万円、定款の認証料一万二千円を渡され度い旨申向け原儀八をしてその旨並に確実に融資を受け得るものと誤信させ因つて同月七日幡多郡清水町浜松旅館に於て同人から東京行旅費並に定款認証料として合計四万二千円の交付を受け更に原儀八をして東京都中央区築地三丁目株式会社富士銀行築地支店宛谷村勗を受取人として十万円を電送させ、同月一八日右支店に於て係員を介し原儀八より運動資金名義の下に現金十万円を受取り騙取したものである。(以下省略)
(裁判長判事 三野盛一 判事 谷弓雄 判事 合田得太郎)